クイックハルト

クイックハルト
作者:郁雄/吉武
挿絵:丸山トモヲ


もし。
映像化するというのなら、アニメじゃなくて実写が良いなぁ・・・。
膨大な設定を「お約束」の一語で処理し、ストーリーを展開出来るのが特撮の強み。
この作品のカッチリとした世界観も、特撮なら楽に受け止められます。
その上で。
世界観と較べて、やや掘下げ不足な登場人物を引き立てる事が出来るんじゃないかと。
 生身の役者を使えば「どうしたって個性が出るし*1、それが良いように転ぶんじゃないかな」そんな気がした作品です。

【手に取るまでの経緯】

作者さまのご好意に甘えて、献本していただきました。

詳しくは、こちらの公式サイトにて。
Astronaut/アストロノート

※連絡を取ってから、本を頂けるまでの流れが凄くスムーズでしたよ。
※読み手の方々には、まずはお気楽にどーでしょう?と言ってみます。
※レビューには見覚えのある読み手のお名前がズラリで・・・(笑)。

【内容】

はるかな未来。
人類は、生活の場をデータ上の世界「ドライブスペース」に移していた。
文化的背景の異なるパラレルワールドを多く抱えるこの世界では、異世界間の戦争が禁止されている。
代わりの紛争解決手段は、不死不老不滅の属性を持つ者同士による決闘「クイックハルト」。
 
そんな世界で、一人の少年が得るもの。
そして。
手にしきれなかったものとは・・・。
 
(長い上に、ネタバレなので隠します)

【印象】

非常にシナリオノベライズ的ですね。


以下、私見です・・・。
 
作者の中にある完成形の「物語」を、独自の感性で「エンコード」したものが「小説」。
読者がその作品に共感し、作者の伝えたかったイメージを自分の中に「展開・復元」出来て初めて、小説は物語になると思っています。
それが出来ない小説は、いわゆる「シナリオ」になるんじゃないかと。
 
作者の持つ情報を共有した人間は、意図した通りに物語として、消化出来ると思います。
また。
自分なりに物語の「コア」を見つけ、それを足場として楽しむ事の出来る人間にとっても、小説は物語足りうると思います。
このコアは、ツボと言い換えても良いのですが、これが見つからないと楽しみ方が分からなくなります。
好きも嫌いもなく、事象の列記をただ受け取るだけ・・・。
それが、上述した「小説」が「シナリオ」になる状態です。
 
さて。
 
自分はヒロイックファンファンタジーが好きです。
なぜならカタルシスが快感だからです。
そして。
そのカタルシスを得るために必要なものの第一は、対象への共感です。
これが自分にとってのコア。

主人公に注目してみます。

  1. 齢16
  2. 世界が造り物である事を知っている
  3. それでも自分を含めた社会、家族を自然のままに受け入れている
  4. その家族が消え、一人になった
  5. でも守りたい少女が出来た
  6. 一人ではなくなった
  7. その少女から、精神的に決別された
  8. 諦念とともに受け入れた





おろろ。
高校生にしては、ちと物分りが良すぎませんか(^^;。
先日読んだ「狼と香辛料」の対極に位置すると思うほど読みやすいのは確かですが、これじゃ停滞期の夫婦ですよ、と。
 
両親の死を理解した時の嘔吐のシーン*2は、凄いと思ったんだけどな。
あの直後に、最優先事項が「親→少女」に切り替わったと思っていただけに相手が相手とは言え、あっさり身を引いたように見えるのがちょっと残念。
 
脳内では、昨日見た台詞がリフレインです。

あ、諦めるのですか
 
商人は軽々しく諦めるなと、主人にいつも言われています
狼と香辛料(3)―308頁:丁稚)

 
我が儘言って見苦しく困らせたっていいじゃないですか、せめて一度くらいは。
言わなきゃ伝わらなくても仕方がないのです*3
想いを言葉に出来ない小さな子なら話は別ですが、少年は16。
いわば義務を怠った結果のもたらした決別で、それゆえ弁護の余地はねーのですな。
 
自分には。
世界をリセットに追い込む程の能力が、とても魅力的でしたよ。
その引き金を引けた事実が、とても貴重に見えました。
ずっと側に居たいと思うほどの存在。
その存在との別れが不可避だとしたら、何度だってリセットしちまえば良いじゃない。
 
体験を記憶するアイテムやら、不滅不老不死のアンドロイドとか。
すぐ傍に添い遂げるためのヒントまで転がってるのに、なんで手を伸ばさないのか不思議で・・・。
そういや「フレイアになりたい」でも、こんな事書いた気がする

データにとっての死(要は、この世界における死)の先にあるものが何かは分かりませんが、それは現実でも同じ事。
例え手段が間違っていても、とことん諦めない姿を見たかったなぁ・・・。
 
ま。
リセットする事は、世界を守るヒーローにとって禁忌で。
それが出来ないからこそヒーローだとするなら、この主人公はヒーローな訳で。
結果として、物語を展開する上で最適な舞台は「特撮」なんじゃないのかな。
そんな結論に達した次第です。

何か巧くまとまった気がするので、この辺で(笑)。
いじょ。

【一行メモ】

これは不幸にもヒーローにならざるを得ない少年が、世界の正義と自分の幸せとを秤に掛ける物語です。
 

【最後に】

改めて、作者の郁雄/吉武さまには感謝を。
献本ありがとうございました。
次の機会には、売り上げにも協力出来たらなと思います。

*1:「子供って言うなっ」のインパクトを念頭にw

*2:その後、うがいして鼻をかんで、またうがいする描写があれば、もっとリアルだった気も・・・。

*3:だからこそ、以心伝心は尊いと言えます。